コミュニケーション能力

上司や同僚、部下がアスペルガー症候群?仕事をする上で重要なことはその特徴を理解することから始まる

1. はじめに

仕事をしていると、上司や同僚、部下が「発達障害」かもしれないと感じたことがある方もいるかもしれません。私たちに、アスペルガー症候群を持つ上司や同僚、部下がいる場合があります。本記事では、宮尾益知氏と滝口のぞみ氏の著書「部下がアスペルガーと思ったとき 上司が読む本(河出書房新社)」を参考にしながら、アスペルガー症候群の特徴と、仕事をする上で重要なことについて解説していきます。私たちはアスペルガー症候群の特徴を理解することが第一歩です。特徴を理解することができれば、皆さんの心にも余裕ができ、どのような対応をしていくことができるのかを考えることができるようになります。

アスペルガー症候群は、一般的な社会的なコミュニケーションや振る舞いに困難を抱える特性があります。まずはアスペルガー症候群の特徴について基本的な知識を身につけ、アスペルガー症候群の方の特性や困難さを理解することが重要です。そして、その上で柔軟な対応策を考え、皆さんがストレスを感じずに働ける環境を整えることが求められます。それによって、仕事における前向きな姿勢やストレスの解消・軽減に繋がるでしょう。

2. アスペルガー症候群とは何か

「アスペルガー症候群」とは、オーストラリアの小児科医ハンス・アスペルガー氏にちなんで名付けられた疾患です。アスペルガー氏は1944年に「小児期の自閉的精神病質」というタイトルでドイツ語の論文を発表し、この症状について初めて報告しました。

本記事では、アスペルガー症候群の定義として、イギリスの自動精神科医ローナ・ウィング氏が1981年に提案した定義を採用します。「社会性、コミュニケーション、想像力の3つの障害を持つ子どもたちを自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)と認識する」というものです。ただし、アメリカ精神医学会や世界保健機関(WHO)などによる定義も存在しますが、詳細な内容についてはおすすめ書籍に詳しく記載されていますので、そちらを参照することをおすすめします。

アスペルガー症候群は、社会的な相互作用やコミュニケーションの障害、想像力や創造力の制約などを特徴として持ちます。これらの特性によって、アスペルガー症候群の人は日常生活や社会的な関係において困難を抱えることがあります。上司にとっては、部下がアスペルガー症候群の場合にはその特徴を理解することが適切なサポートやコミュニケーションの実現につながります。

3. アスペルガー症候群の症状

(1)社会的関係が結べない

アスペルガー症候群の人は、社会的な関係性を築くことが難しいです。集団の中での適切な振る舞いや相互作用を理解することが困難であり、他の人とのつながりを築くことが難しくなります。

(2)言語以外のコミュニケーションが得意ではない

コミュニケーションは、自分の思考や感情を他者に伝えることや、相手の意図や感情を理解することです。言語を使用する場面だけでなく、非言語的なコミュニケーションも重要です。しかし、アスペルガー症候群の人は、特に非言語的なコミュニケーションにおいて苦労する傾向があります。

(3)状況に合わせて適切なふるまいが行えない

想像力や柔軟な思考力は、さまざまな状況に対応して適切な行動を取るために重要です。しかし、アスペルガー症候群の人は、状況に応じて適切な行動をとることが難しくなります。例えば、日常のルーティンやこだわりに固執し、新しい状況に適応するのに苦労することがあります。

アスペルガー症候群の症状は個人によって異なりますが、これらの特徴が一般的にみられます。上司としては、これらの特徴を理解し、部下の困難さに配慮することが重要です。また、適切なサポートやコミュニケーションの手法を用いることで、部下の能力を最大限に引き出し、仕事の成果を上げることができます。

4. アスペルガー症候群の特徴

アスペルガー症候群には社会的関係の障害、コミュニケーションの障害、創造力と創造性の障害の3つの組の特徴があります。大人になり社会生活を営む中で、どのような困難が生じるのか考えてみましょう。

(1)会話のウラが読めない、抽象的であいまいな表現が理解できない

アスペルガー症候群の人は、会話のウラを読むことができません。抽象的であいまいな表現を理解することも難しいのです。「どうしてそうするの?」と尋ねると、「どう」とは具体的に何を指しているのか、そして「そうするの」で具体的に何を意味しているのか、一つ一つ考えてしまいます。この困難は、想像力が働きにくいために生じます。また、話の直前のことを指している言葉でも、具体的に再び言ってもらわないと理解できないこともあります。さらに、皮肉やたとえ話など、言葉のウラを読む能力も限られているため、相手の意図を理解することが難しいのです。アスペルガー症候群の人にとって、言葉は単に「事実を伝える道具」として捉えられ、相手の言葉を文字通りに受け取ってしまう傾向があります。

(2)予定外のことに戸惑う

アスペルガー症候群の人は、予定外のことに対して戸惑う傾向があります。予期せぬ変化や出来事が起こった場合、彼らは想像力を活用することが難しく、柔軟な思考の転換が苦手です。その結果、不安感が増し、一時的にフリーズしたりパニックになったりすることがあります。

例えば、予定が変更されたり、急なスケジュールの変更があったりすると、アスペルガー症候群の人は安定したルーティンや予測可能な状況へのこだわりが強く、それに対する不安や混乱を感じることがあります。

(3)交渉ごとが苦手

アスペルガー症候群の人は、交渉ごとにおいて苦手意識を持つことがあります。交渉とは、相手の気持ちや立場を考えながら進める必要があるため、社会的関係の障害、コミュニケーション能力の障害、そして想像力の欠如といった要素が、円滑な人間関係の構築を難しくしています。

アスペルガー症候群の人は自身の意図を持って交渉を進めることは可能ですが、相手との妥協点を見つけることや合意形成を図ることが難しい傾向があります。彼らは直感的な感じ方や相手の立場を推測することが苦手であり、具体的な情報や論理的な根拠に基づいて交渉を行うことが多いです。

(4)全体像がつかめない

アスペルガー症候群の人は、全体像を把握することが苦手です。物事を全体として理解する能力が制限されています。部分の集まりから全体をイメージするため、全体的な理解には時間がかかることがあります。また、全体像を把握する際には偏りが生じることもあります。

これにより、仕事の中で全体像を把握することや大局的な視点を持つことが難しくなります。具体的な細部や詳細な情報に集中する傾向があり、全体の概念や全体的な目的を見失いがちです。その結果、作業効率が低下する可能性があります。

(5)選択的注意ができない

アスペルガー症候群の人は、選択的な注意を払うことが難しいです。選択的注意とは、多くの情報の中から必要な情報を取捨選択する能力のことです。しかし、彼らには上野駅で故郷の訛りを聞き分ける能力や、カクテルパーティーで知り合いを見つける能力といったものが欠如しているとされています。

賑やかな環境にいると、すべての音が耳に入ってしまい、必要な情報や相手の声に集中することができません。視覚においても同様の傾向が見られます。周囲の色彩が多様で整然としていない場合、必要なものを選び出すことが困難です。

また、自分の感情に関連する出来事に気づく能力も制限されています。アスペルガー症候群の人は、涙が出ることが悲しいことを意味することや、好きな人に近づくと心臓がどきどきすることが恋愛感情の表れであることに気づくことがありません。このような感情に対する理解は、説明されるまで気づかない場合があります。

(6)顔が覚えられない

アスペルガー症候群の人は、顔を覚えることが難しいです。通常、私たちは人の顔を大まかな印象や特徴で識別します。目の形や表情も重要な要素です。しかし、アスペルガー症候群の人は、全体的な特徴よりも細かい部分に注目する傾向があります。そのため、顔の表情が変わると、別の人物と認識してしまうことがあります。

彼らは相手の顔をメガネやアクセサリーなどの特定の要素で覚えている場合もあります。そのため、相手のアクセサリーや服装が変わると、顔を特定するのが困難になることがあります。顔の特徴を適切に認識する能力が制限されているため、名前や他の情報と結びつけて人を識別することがより重要になります。

(7)「生きにくい」と感じている

アスペルガー症候群の人は、「生きにくい」と感じることがあります。成長の過程で、自分が周りと異なる存在であると感じたり、周囲の人や社会の動きを理解しづらいと感じたりすることがあります。そのため、周囲の人を観察し、模倣を通じて生活していくことが一般的ですが、知的な能力が高いからと言って、全てを完璧に模倣できるわけではありません。

彼らにとっては、優しい環境で具体的なケースを教えてもらうことが必要です。理解しやすい具体例や明確な指示を通じて、彼らが適切な行動や社会的なスキルを身につけることができます。彼らが自身の困難さを理解し、自己肯定感を高めることも重要です。

(8)2つのことを同時にできない

アスペルガー症候群の人は、2つのことを同時に行うことが難しいです。社会生活において、同時に複数のタスクを進行させることが求められる場面は多々あります。例えば、話を聞きながらメモを取ったり、電話をしながら書類を確認したりするなどです。しかし、アスペルガー症候群の人は、話を聞くことや書くことを別々に集中しなければならず、同時に行うことが困難です。

彼らは話を聞きながらメモをとるなどの同時処理が苦手であり、その結果、会議や交渉の場で周囲から取り残されたような気分になることがあります。複数の情報を同時に処理することや、複雑なタスクを同時に行うことが難しいため、彼らには順序立てて取り組む環境やサポートが必要です。

5. アスペルガー症候群の人は生きにくくなっている理由

(1)対人関係や人間関係が重視される

現代社会では、対人関係や人間関係が非常に重要視されています。しかし、アスペルガー症候群の人にとって、このような社会的なスキルを磨く機会は限られています。地域社会の変化やデジタル化の進展により、人との直接的な対話や交流が減少し、ソーシャルスキルの発達が困難になっています。

また、多くの職業においても、対人関係を重視することが求められます。コミュニケーションや協調性、チームワークなどが重要な要素となっています。しかし、アスペルガー症候群の人は、これらのスキルに課題を抱えている場合があります。適切な社会的なサポートや理解がなければ、仕事や社会生活において生きにくさを感じることがあります。

(2)現代では生産者側のミスが許されにくくなっている

以前は商業圏において、仕事の効率が悪くても少々の間違いがあっても、顔見知りの関係でお互いに許容し合うことができました。しかし、現代では消費者はより高品質な商品やサービスを求めるようになり、生産者側に対しては少しのミスや遅れも許容されなくなっています。

特に大都市では、顔の見えない取引が一般化しています。このような厳しい社会環境の中で、アスペルガー症候群の人は疲弊し、自信を失い、孤立していくことがあります。彼らはコミュニケーションやソーシャルスキルの困難さから、適切な対応やパフォーマンスを発揮することが難しくなります。

(3)就職後(大人になってから)にアスペルガー症候群であることに気づく

アスペルガー症候群の人には知的障害がないため、幼少期にその特性に気づかれる機会が少ないことがあります。多くの場合、学童期後期や大学進学、あるいは就職後など、大人になってからアスペルガー症候群であることに気づくことがあります。このような遅い診断や自己認識の遅れは、学校や職場での社会的な適応に困難をもたらし、彼らが脱落する原因となることがあります。

また、アスペルガー症候群の人はうつ状態に陥る傾向があります。何度もうつ病を経験したり、うつ状態から回復するのに時間がかかるケースがあります。これは、アスペルガー症候群の特性が理解されず、適切なサポートや配慮が受けられないことが一因とされています。最近では、うつ状態の人の中に発達障害の人が多いことが指摘されるようになっています。

アスペルガー症候群の人が適切な診断と支援を受けることは重要です。早期に自己認識ができれば、学校や職場での適切なサポートが受けられ、生きやすさを向上させることができるでしょう。社会全体でアスペルガー症候群や発達障害に対する理解と包括的なサポート体制を整えることが求められます。

6. 私たちが向き合うための基本的なアプローチ

ここまで、アスペルガー症候群の症状や特徴について解説してきました。次は、私たちが向き合うためのアプローチについて考えていきます。

(1)私たちのアスペルガー症候群に関する知識や理解を深める

アスペルガー症候群については言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、具体的な症状や特徴についての知識が不足していることがほどんどだと思います。実際の職場でアスペルガー症候群の人に出会った場合、気づくことが難しいかもしれません。

しかし、アスペルガー症候群の症状や特徴を理解していれば、仕事上で社会的関係やコミュニケーションの障害、創造力や創造性の問題などが原因で問題が起こる部下や同僚、上司に対して、適切な対応ができるかもしれません。

私たちが目指すのは、「この人はアスペルガー症候群だ」というレッテルを貼ることではありません。私たちは医療関係者ではなく、診断や治療を行うことはできません。しかし、アスペルガー症候群についての理解を深め、可能性があるかもしれないと認識することで、柔軟な対応ができるようになります。これにより、対象者とのコミュニケーションや仕事の進め方がスムーズになり、前進することができるでしょう。

アスペルガー症候群についての情報や知識を学ぶことで、私たちはより包括的で理解ある職場環境を作り上げることができます。そして、個々の力を最大限に引き出し、相互の成長と成功を促進することができるのです。

(2)職員の特性に応じて柔軟に取り組む

この記事ではアスペルガー症候群について解説してきましたが、アスペルガー症候群に限らず、職場では多様な人材と共に働くことがあります。個々の人は、異なる価値観、能力、コミュニケーションスキル、モチベーションなどを持っています。

このような多様性のある状況で、職員の特性に応じて柔軟に取り組むことが重要です。それぞれの人の特徴を理解し、尊重し、適切なサポートや環境を提供することで、個々の力を最大限に引き出すことができます。

現代の社会では、標準化を重視する傾向があり、個々人の特徴が押し殺されることや、標準に合わせることが難しいと感じる人も多くいます。しかし、私たちが目指すのは、1人ひとりが働きやすい環境を創り出し、個々の特性を活かして成長できる職場です。

職員の特性に応じた柔軟なアプローチは、効果的なコミュニケーションやタスクの割り振り、適切なフィードバックの提供などにつながります。職員の個々の能力や興味を最大限に活かし、自己成長や仕事への意欲を促進することで、生産性の向上や職場環境の向上につながるでしょう。

私たちは多様な人材を抱える職場で働くことが現実です。そのために、互いの特性を尊重し、柔軟に取り組むことは、職場全体の活力と成果に繋がるのです。

7. まとめ

本記事では、アスペルガー症候群の部下の特徴と向き合うためのアプローチについて解説しました。アスペルガー症候群の特徴として、社会的関係の障害、コミュニケーションの障害、創造力と創造性の障害の3つの組が生じていることが挙げられます。

アスペルガー症候群の人が生きにくくなっている理由として、対人関係の重要性や現代の厳しい生産性要求、就職後に症状に気づくことが挙げられます。

私たちが向き合うためのアプローチとして、まずはアスペルガー症候群に関する知識と理解を深めることが重要です。また、職員の特性に柔軟に取り組むことも大切です。個々の特性を尊重し、適切なサポートや環境を提供することで、職場全体の活力と成果を高めることができます。

アスペルガー症候群の人々が働きやすい環境を創り出すことは、多様な人材が共に成長し、生産性を高め、社会に貢献するために重要です。私たちは互いの特性を尊重し、柔軟なアプローチを取ることで、より良い職場環境を築いていくことが求められています。

8. おすすめ書籍「部下がアスペルガーと思ったとき 上司が読む本(河出書房新社)」

「部下がアスペルガーと思ったとき 上司が読む本(河出書房新社)」は、宮尾益知氏と滝口のぞみ氏によって執筆された書籍です。この本は、アスペルガー症候群を持つ部下との向き合い方について具体的なアプローチを提案しています。

本書では、アスペルガー症候群の特徴や症状について詳しく解説されており、社会的関係やコミュニケーションの障害、状況適応の困難さなどに焦点を当てています。

「部下がアスペルガーと思ったとき 上司が読む本」は、アスペルガー症候群に関心を持つ上司やリーダーにとって、理解を深めるための貴重な情報源となるでしょう。

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