リーダーシップ

2割のエリートのためでなく残りの8割の人のための人材育成が重要!?マネジメントに関する人材育成の3つの間違いとマネジメントの考え方

1. はじめに

企業において、優れたマネジメント能力を持つ人材は極めて貴重であり、その育成は重要な課題となっています。しかし、多くの組織では、マネジメント開発において間違ったアプローチを取ってしまっていることがあります。

本記事では、経営学の第一人者であるピーター・ドラッガー氏の著書「マネジメント 基本と原則(ダイヤモンド社)」を参考にしながら、マネジメントに関する人材育成における3つの間違いを明らかにし、適切なマネジメント能力の育成について考えていきます。

2. マネジメント開発における人材育成の3つの間違い

(1)セミナーに参加することではなく組織全体と個々のマネージャーのニーズに合うものである必要がある

マネジメントの開発において、セミナー参加は手段の一つに過ぎません。セミナー自体がマネジメントではありません。一時的なスキル向上のための3日間のセミナーであったり、2年間にわたる週3回の上級セミナーであったりしても、それが組織全体や個々のマネージャーのニーズに合わなければ、意味を成しません。さらに、実際の業務や上司、組織内のプログラム、個々の自己啓発プログラムの方が、どんなセミナーよりも重要な意味を持ちます。

マネジメント開発は、組織全体の目標や戦略に基づき、個々のマネージャーのニーズに合わせて設計されるべきです。それぞれのマネージャーが直面する課題やスキルの不足を正確に把握し、それに対応するトレーニングや教育プログラムを提供することが重要です。また、マネジメント開発は単発的な取り組みではなく、持続的な学習と成長を促す体制を整えることも欠かせません。

セミナーは一時的な情報共有やスキル向上に役立ちますが、それだけでは限界があります。マネジメント開発はセミナーだけでなく、組織内での実践的な仕事や上司からのフィードバック、個々の自己啓発によっても大いに促進されるのです。組織は、マネジャーの成長を支援するために適切な環境と機会を提供することで、持続的なマネジメント開発を実現する必要があります。

マネジメント開発においては、単にセミナーに参加させるだけではなく、組織全体のニーズと個々のマネージャーの要望を考慮し、多様な学習手法やプログラムを組み合わせて取り組むことが重要です。そのような綿密な計画と柔軟性を持ったアプローチこそが、真に有意義なマネジメント開発を実現し、組織の成果を高めるのに役立つのです。

(2)人事計画や2割のエリート探しではなく残りの8割に対してマネジメント開発をする必要がある

マネジメント開発は、人事計画や2割のエリート人材を探すことではありません。そうしたアプローチはむしろ無駄であり、時には有害な結果をもたらす可能性があります。

組織が避けるべき最悪のシナリオは、2割のエリートを育成するために、残りの8割の人材を軽視してしまうことです。実際、将来の成功において重要な役割を果たすのは、その8割の人々なのです。彼らが担当する仕事の大部分を放置し、無視することは避けなければなりません。

10年後、組織の業務の8割は、その放置された人材が担当することになるでしょう。しかし、彼らは自身が放置され、重要視されなかったことを覚えています。その結果、彼らの成果は上がらず、生産性は低下し、新たな取り組みへの意欲も失われてしまうかもしれません。

一方で、選ばれた2割のエリートの中には、口先だけの能力を持つ人も存在します。彼らが40代になる頃には、その事実が明らかになるでしょう。重要なのは、エリート人材の表面的な印象にとらわれず、全ての人材に公平なチャンスを与えることです。

マネジメント開発は、全ての従業員に対して公平で包括的なものであるべきです。組織は、個々の能力や潜在能力を見極め、成長の機会を提供することで、全体のパフォーマンスを向上させることができます。マネジメント開発の成功は、組織全体の力を引き出し、持続的な成長を促進するために欠かせない要素です。

(3)人の性格を変え改造するためのものではない

マネジメント開発は、人の性格を変えたり、人を改造するためのものではありません。その目的は、個人の強みを最大限に活かし、成果を上げることにあります。マネジメント開発は、個々の従業員が自らの考えややり方によって存分に活動できるようサポートするためのものなのです。

組織は、雇用主として従業員の性格をとやかく言う資格は持っていません。雇用関係は、特定の成果を求めるための契約であり、それ以外の要求は適切ではありません。従業員に対して性格やプライバシーに不当かつ不法な干渉を行うことは、人権の侵害であり、権力の乱用になりかねません。

マネージャーは、従業員に対して忠誠心や愛情、行動様式を求めるべきではありません。マネジメントは成果に焦点を置くものであり、要求されるのは成果だけです。従業員の個々の性格や特性を尊重しながら、彼らが最大限の成果を発揮できる環境を提供することが重要です。

マネジメント開発においては、従業員の個性を認め、彼らが持つ強みを活かすことに注力すべきです。適切な指導やサポートを通じて、従業員が自己成長し、結果を出せるように導くことが重要です。マネージャーは、従業員の個々の能力や成果にフォーカスし、肯定的なフィードバックや適切な挑戦を通じて成長を促す役割を果たすことが重要なのです。

3. 成果を中心に考えるマネジメントの考え方

組織やチームの目的は、非凡な成果を凡人にもたらすことにあります。天才に頼ることはできません。天才は稀であり、頼りになるものではありません。重要なのは、凡人からその持っている強みを引き出し、他の人々との協力を通じて成果を上げることです。組織の成功は、このようなアプローチが実現されているかどうかにかかっています。

同時に、組織やチームの役割は、人々の弱みを無意味にしないことです。組織やチームの健全性は、成果中心の精神が浸透しているかどうかによって評価されます。強力なマネジメントは、弱みを隠すのではなく、弱みを認めつつそれを補完する方法を見つけ出し、全体の成果を最大化します。

(1)マネジメントは成果を中心に考える

マネジメントは成果を中心に考えることが重要です。成果とは、必ずしも100%成功することを意味するものではありません。失敗は普通のことであり、成果とは成功確率に関わる話です。そのため、成果を評価する際には、長期的な視点を持つことが重要です。長期的な成果とは、短期的な失敗や逆境に耐え、組織やチームの目標に向かって進んでいく能力を指します。

マネージャー自身にも弱みがあり、それは当然のことです。弱みがあるからこそ、マネージャーは成長し、学び続けることができます。弱みを持つことがマネージャーの評価を下げるものではありません。逆に、弱みを受け入れることは、マネージャーの意欲を高め、士気を向上させます。人々は、多くの間違いを犯しながら新しいことに挑戦するほど、成長し、学び続けるのです。

マネジメントは、成果を中心に考え、個々の強みと弱みを認識しながら、組織やチームの目標に向けて進むことです。マネージャーは、従業員の成果を引き出すために適切なサポートと指導を提供し、挑戦と学びの環境を築くことに責任を持ちます。成功は完璧さではなく、成果を追求する姿勢と持続的な努力によって実現されるのです。

(2)マネジメントの焦点は問題ではなく機会に合わせなければならない

組織やチームは、問題に囚われるのではなく、機会に目を向けることでその意欲を高める必要があります。機会にエネルギーを注ぐときに、多くの人は、興味が出たり、チャレンジする気持ちになれたり、達成感が得られるのです。

もちろん、問題を無視するわけではありません。問題解決は重要な要素ですが、マネジメントの焦点を問題解決に絞りすぎると、組織やチームが守りに入り、リスク回避のみに重点を置く傾向が生じます。そのような組織は、成長や進歩を達成するための適切なチャンスを逃し、成果を上げることにはつながりません。

マネジメントの本質は、問題に対処するだけではなく、機会を見極めて最大限に活用することです。組織やチームは、変化の中に潜む機会を捉え、それを成果に結びつけるための柔軟性と創造性を持つ必要があります。問題を解決するだけではなく、逆境や変化に対してポジティブな姿勢を持ち、新たな機会を見出す能力が求められます。

マネージャーは、問題解決に焦点を当てるだけでなく、機会を探し、それをチームに伝え、活用するリーダーシップを発揮するべきです。マネジメントは、状況を冷静に分析し、問題を解決するだけでなく、ビジョンを持ち、チームメンバーの能力を引き出し、機会を最大限に活かすための戦略を策定することも含まれます。

組織やチームが成果を上げるためには、問題に囚われるのではなく、機会に焦点を当てる柔軟性と前向きな姿勢が欠かせません。マネジメントは、問題を解決しながらも、チームに新たな機会を提供し、成果を最大化するための環境を築くことが重要です。

(3)人事に関わる決定は真摯さこそが唯一絶対の条件である

マネージャーにとって真摯さは絶対的に必要な資質であり、それは演じることができるものではありません。共に働く人々、特に部下に対して、マネージャーの真摯さはすぐに伝わります。無知や無能、態度の悪さや信頼性の欠如は、寛大に許容されることもありますが、真摯さの欠如は決して許されません。真摯さの定義は難しいかもしれませんが、真摯さの欠如を明確に定義することは比較的容易です。以下に真摯さの欠如の例を示します。

①強みよりも弱みに目を向ける人をマネージャーにしてはいけない

できないことに気づいても、できることに目を向けない者は、組織やチームの士気を低下させます。

②何が正しいかよりも誰が正しいかに関心を持つ人をマネージャーにしてはいけない

何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ人をマネージャーに任命してはいけません。仕事よりも人を重視することは、組織やチーム全体を堕落させる結果となります。

③真摯さよりも頭のよさを重視する人をマネージャーにしてはいけない

真摯さよりも頭のよさを重視する人をマネージャーにしてはいけません。そのような人は未熟であり、その未熟さは通常は改善されません。

④部下に脅威を感じる人をマネージャーにしてはいけない

部下に脅威を感じる人を昇進させてマネージャーにしてはいけません。そのような人は人間的に弱い傾向があり、組織やチームに問題を引き起こし、成果を上げることはありません。

⑤自らの仕事に高い基準を設定しない人をマネージャーにしてはいけない

自らの仕事に高い基準を設定しない人をマネージャーにしてはいけません。そのような人はマネジメントと仕事に対する軽視を広め、組織やチームの成長に悪影響を及ぼします。

知識や能力が乏しく、仕事ぶりがお粗末であり、判断力や行動力が欠如していても、マネージャーとしては無害なこともあります。しかし、知識や能力に優れ、仕事を巧みにこなす一方で真摯さを欠いている場合、そのマネージャーは組織やチームを破壊してしまいます。真摯さを欠くことで組織やチームの中で人々が破壊され、結果的に組織の精神が傷つき、業績も低下することになります。

真摯さこそが人事に関わる決定において絶対的な条件です。マネージャーには真摯さが求められます。真摯さを持つマネージャーは、組織やチームの成功のために人々を導き、信頼を築き、成果を上げることができます。真摯さは組織の文化を醸成し、人々の成長と発展を促し、持続的な成功をもたらすのです。

4. まとめ

本記事では、マネジメントに関する人材育成の重要性と、その際に避けるべき3つの間違いについて解説しました。まず、マネジメント開発はセミナーやエリート人材の発掘にとどまらず、組織全体と個々のマネージャーのニーズに合った取り組みが必要です。また、マネジメントの焦点は問題解決ではなく、機会に合わせることが重要です。組織やチームは機会にエネルギーを注ぎ、興奮や挑戦、満足感を享受することで成果を上げます。さらに、人事に関わる決定においては真摯さが唯一絶対の条件であり、マネージャーには真摯さが求められます。強みよりも弱みに目を向け、何が正しいかよりも誰が正しいかに関心を持つことは避けるべきです。頭のよさよりも真摯さを重視し、部下に脅威を感じる人や自らの仕事に高い基準を設定しない人をマネージャーにすることは適切ではありません。

組織やチームの目的は凡人を非凡な成果に導くことであり、マネジメントは成果を中心に考えるべきです。真摯さを持ったマネージャーが機会に焦点を当て、チームの強みを引き出し、人々の成長と発展を促進することで、組織の成功と持続的な成果を実現できるのです。

マネジメントについてもっと知りたい・学びたい方はこちら:リーダーシップ・マネジメント本のお薦め

5. おすすめ書籍「マネジメント 基本と原則(ダイヤモンド社)」

ピーター・ドラッガー氏の「マネジメント 基本と原則(ダイヤモンド社)」は、本記事で取り上げたマネジメントの考え方に関する重要な参考文献です。この書籍は、マネジメントにおける基本的な原則や考え方を深く掘り下げ、組織やチームの成果を上げるための指針を提供しています。

本記事では、マネジメント開発における3つの間違いや成果中心の考え方、真摯さが人事に関わる決定において重要であることを述べましたが、この書籍はそれらの概念をより詳細に解説しています。

「マネジメント 基本と原則」を通じて、より実践的なマネジメントスキルやリーダーシップの要素を学び、組織の成功に向けた効果的な人材育成に取り組むことができます。

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